新型コロナウイルスワクチンを打つべきか

1. 概要

2019年12月、中国の武漢にて世界初の新型コロナウイルス(COVID-19)感染者が確認された。その後驚異的な感染者数の増加を見せ、2021年8月23日現在、累計感染者数2.1億人、死者440万人という、近代では類を見ない感染爆発とななり、その名をあまねく知られるようになった。2020年は、マスクを着用したり他人との距離を保ったりという受動的な対策しか持ち合わせておらず、都市封鎖を行う国もあった。そして2021年に入り、このウィルスに対するワクチンが実用段階となり、ようやく人類は有効な対策を持ったかのように見えた。ワクチンは今、全世界で、かなりの数が打たれている

ワクチン接種状況が遅れていた日本でも、ようやく本格的な接種が開始され、2021年8月23日現在、総接種回数が1億回を超え、1回目接種を終えた人の割合は51%、2回目接種を終えた人の割合は39%を超えた。(出典:首相官邸)

一方で、他のワクチンに比べ短期間で開発/実用化された本ワクチンの安全性や、副反応について不安を覚えることも多い。本記事では、ワクチンを打つべきか、を考える。

<結論> (ワクチンは、ファイザー社および武田/モデルナ社のワクチンとして言及する)
ワクチンの有効率は94~95%と、インフルエンザワクチンの60%に比べても高い値を持ち、また、万が一感染しても重症化を予防する効果もある。最近の新型コロナウイルス感染状況では、基礎疾患を持たない者や若い世代の重症化率が高まりつつあること、病床が逼迫していることを考慮すると、本ワクチン接種のメリットは非常に大きいと言える。現時点(2021年8月23日)での国内感染者数累計は約130万人であり、人口1.25億人とすると、96人に1人の割合である。

デメリットは、インフルエンザワクチンと比較してかなり高い発現割合となる副反応と、長期的安全性の実績が無いことである。前者に関しては、ワクチン接種なしで新型コロナウイルスに感染し、重症化するリスクを考えると、数日の副反応で収まることを考えれば、大きなデメリットにはならないだろう。後者については、原理的にみても、また一般のワクチンの知見から見ても、長期的な副反応が発生することは考えにくく、その可能性は極めて小さいと言えるだろう。

以上を総合すると、ワクチン接種のメリットはデメリットを上回り、ワクチンは接種すべきである、と言えるだろう。

2. 新型コロナウイルスを俯瞰する

本章では、新型コロナウイルスを俯瞰し、俺の考えを述べる。

2.1 人類 vs. 新型コロナウイルス

「人類 vs. 新型コロナウイルス」という戦争の観点から見れば、かろうじて人類は種の存続が出来ているというだけのものでしかない。無様なものだな。 というのが俺の見解である。

もちろん、感染拡大を防ごうとする行動や、感染者の治療、ワクチンの開発など、全世界的な努力は素晴らしいと思っている。しかし、その多くは「守り」であり、ウイルスに対する「攻撃」はほとんどできていないのである。ワクチンは、その高い有効性は示されつつあり、攻撃の1つとなり得るが、決定打となるかは、まだ誰も分からないのである。

今、2021年という時代は、歴史的に見ても世界大戦から時間が立ち、国家体制は安定しているため、今回のような未曾有の事態に国力を全力投入できる状態にあると思う。また、医療もかなり進んでいて、このような感染症への対策もすぐにできるものだと、漠然と思っていた。しかし実際は、未知のウイルスに対しては、想像以上に無力であった。俺の思う「無力さ」には2つあって、1つは人間の判断力、もう1つはワクチンのような攻撃の一手を作成する技術力である。

まず、人間の判断力についてだが、感染者の隔離すらまともに実行できない国が大半であった。経済政策として、都市封鎖や緊急事態宣言を発令する国は日本を含めて多かったと思うが、結果が伴ったかは別の問題である。どうやら人間は、外をうろつかずにはいられないようである。これを強制できた国は、俺の知る限り中国のみである。皮肉なことだが、ウイルスの発生源である中国のみが、うまくウイルスを抑制し、一方で資本主義国の代表たるアメリカが最も痛手を負ったと言ってよいだろう。人々の自由や権利を最大限に追求し成長した国家であるアメリカは、それゆえに個人の行動に対して強制手段は無かったのである。国民性からみても、自粛警察が生まれることや周囲の目を気にすることも無かっただろう。その結果、感染爆発を起こしてしまった。アメリカの感染者数累計は約3700万人(2021年8月23日現在)であり、人口を3.28億人とすれば、約9人に1人が感染者である。一方の中国は、独裁的な国が徹底的な都市封鎖を行い、見事抑制に成功している。極論を言えば、資本主義を進めたがゆえに、アメリカは新型コロナウイルスに対して痛手を負ったのである。参考として、アメリカ/中国の感染者数推移を図2.1-1に示す。グラフの見方はこの記事を参照願う。

図2.1-1:アメリカおよび中国の感染者数推移
(感染者数データの出典:Johns Hopkins University)

加えて、今回のウイルスが厄介なのは、人間の思考を惑わせてくるところである。上記のように、個人を尊重するあまり人々の統制が困難な国が多かったことに加え、ウイルスは、その性能をなかなか明らかにさせないせいで、人間を疑心暗鬼に陥らせた。情報戦という観点からも、人類は完敗している。思い出してほしい、たかがマスク1枚を買い争ったのである。

混迷を極めた印象的な写真を図2.1-2に示す。発端は新型コロナウイルスと無縁であるが、収束の見えない不安や怒りが伴い、暴動に発展したのだと思う。

図2.1-2:2020年ミネアポリス反人種差別デモ
(出典:スプートニク日本ニュース)

また、抑制に成功したと見せかけて人々を安心させ、再度感染爆発する例も散見される。中でもインドは悲惨な例の1つだろう。参考として、インドの感染者数データを図2.1-3に示すが、最後の山がその感染爆発である。

図2.1-3: インドの感染者数推移
(感染者数データの出典:Johns Hopkins University)

インドでは、感染初期には外出禁止令を出し、街を出歩く人々に体罰を与えるという原始的な方法をとった(図2.1-4)。こんなことが政策として実行できる国は限られるが、国民に事の重大さを認識させるには最も効果的な方法であろう。この甲斐あってか、感染者数の増加速度は大きく低減し、ウイルスの抑制に成功したかに見えた。インド政府は、この状況を踏まえ、他国の支援に回ることを宣言し、大規模な宗教行事や集会の開催を容認した。その結果、再度感染爆発を招いてしまった。増加する死者の火葬が追い付かず、集団火葬を行っている様子が図2.1-5である。

図2.1-4:Coronavirus outbreak: Indian police punish lockdown offenders with violence, push-ups @Global News

図2.1-5:インドにおけるCOVID-19死者の集団火葬
(出典:Reuters)

次に、技術力についてだが、現代の医療レベルはかなり高いと、漠然と期待していただけに、実情とのギャップが大きかった。ワクチンではなく、抗ウイルス薬(インフルエンザでいうところのタミフル)がすぐに作られるものだと思っていた。これは俺の知識があまかっただけで、人体の解明、すなわち免疫などのシステムがどのように働いているかは未だに謎が多く、研究されているのである。医療は人類の叡智であり、死屍累々の上に今の我々が存在している。そのことを考えると、その恩恵を受けられるのはとても幸せなことである。ただ、未知のウイルスに対しては、完全勝利する武器を作る技術レベルには至っていないのが現状である。

以上のように、新型コロナウイルスに対しては、判断力、技術力、の観点で俺は無力さを感じていた。

2.2 報道/メディア

報道などメディアもひどかった。彼らにも、混乱を招いた原因はあると俺は思っている。

2.2.1 感染者数

日々報道される感染者数、例えば、「今日の東京における新規感染者数は1000人となり、月曜日としては過去最多となりました。」などである。これは事実として正しいが、我々が知りたいのは今日の感染者数ではなく、その推移である。つまり、感染者数の増加速度は大きくなっているのか、収束に向かっているのか、ということである。そして急に増加したり減少した日があれば、その理由を知りたいのである。この記事でも述べたように、このような指数関数的現象に対しては、日々の新規感染者数が増えたからといって、必ずしも増加速度が大きくなっているとは限らないのである。

有用な表現の1つは、対数プロットを用いることであるが、このグラフの見方は特殊なので、真面目に説明しようとするとこの記事で書いたように少し難しい。ただ、そこは報道/メディアの腕の見せ所ではないのだろうか。俺はある程度厳密に説明したかったので、先の記事のような長い説明文になってしまったが、正しい見方を直感的に伝えるだけなら、もっと簡単に説明できるはずである。また、海外のニュース記事では対数プロットを用いるものも見られた。

2.2.2 様々な用語

新型コロナウイルスのニュースを見ていると、これでもかと新しい用語が出てくる。そして、その大半は直感的に理解できない言葉である。ソーシャルディスタンス/パンデミック/不要不急/ステージ4/緊急事態宣言/まん延防止等重点措置/Go to/mRNAメッセンジャー/ウイルスベクター/第3相試験/職域接種/変異株 …よくもまあこれだけの言葉を使うものである。

「ソーシャルディスタンス」とは何ですか?って聞くと、「社会的距離」だよ、という。まんま訳してどうするんだ。洋画の原題「Sister Act」を邦題「天使にラブ・ソングを…」に訳した日本人のセンスはどこへいったんだ。「社会的距離」なんて、初対面の相手と頬をすり合わせる国の場合はゼロに等しいし、そうでない国は大きいだろう。いや、言わんとすることは分かる、感染しやすい近距離での交流は控えなさい、ということである。俺が言いたいのは、直訳した「社会的距離」だの、ひどい場合には英語そのままの「ソーシャルディスタンス」だのを平然と常用する報道/メディアの傲慢さである。日本人は、人との交流においては敏感であり、「相手に失礼にならない距離」というのを伝統的に会得しているのである。近すぎても遠すぎても失礼にあたる。そのちょうどよい距離が、今言っているソーシャルディスタンスなのではないか。そして、もっと端的に言うならば、「間合い」である。他人と対峙するときの距離、武士が刀を交える距離である。日本人は「間合い」の取り方に長けているので、渋谷のスクランブル交差点でもぶつからないし、その様子が珍しいから外国人の観光名所になっているのである。実はこの「ソーシャルディスタンス」の言い換えは俺の案ではなく、「今朝の三枚おろし」というラジオで武田鉄矢氏が話された内容である。俺は大いに納得した。

「不要不急」なんかも、こんな耳慣れない言葉でなく、もっと直感的になじむ言葉があったはずである。ステージ3だか4だか知らないが、だったら何だというのか。そういう言葉を使わずに、もっとうまく説明できるのではないか。「まん延防止」の「まん」は何故平仮名なのか、緊急事態と何が違うのか。mRNAだかウイルスベクターだかカンピロバクターだか知らないが、何か危険があるのか。「職域接種」も、せめて「職場接種」じゃないのか。「俺の職域は〇〇だ」などと言う奴がいるのか。「変異株」、株ってなんだ。「変異種」とか「変異体」のほうが分かりやすいだろう。

もちろん中にはこれらの言葉を説明するものもあったろう。しかし、俺みたいに3行以上の説明は読む気の失せる人が大半なのだから、そのことを肝において、最初から専門用語や横文字は使うべきではないと考える。「間合いを保ってください」これだけ言えば、「ソーシャルディスタンス」の意味するところを日本人は的確に理解するのである。

2.2.3 公開データ

上記のように報道/メディアから受動的に情報を受信するだけでは、俺が知りたいことはほとんど分からなかったので、現状を理解するために、感染者数推移を評価しようと思い立った。その完成形がこのアプリであるが、アプリを作り始めた当初、国内感染者数の公開データがほとんど無かったのである。俺はこの事実に驚愕し、いくら調べても出てこないデータにイライラしていた。全世界データとしては、初期からJohns Hopkins University (JHU)がデータをまとめて公開しており、データの質、更新頻度、とも素晴らしく、その評価は現在も変わらない。統一的な国内データを初めて公開したのは、J.A.G. JAPAN Corp.である。前述のJHUに着想を得て、Webも同形式で作成された。ただ2020年11月30日以降、更新が完全に止まっている。これは恐らく、行政機関が公開データを出し始めたために、その役目を終えたと判断したからだろう。ただし、当時の行政機関のデータの質はJHUの足元にも及ばず、自分の管轄する区域のデータのみを公開しているだけで、データ形式もバラバラで、ひどい場合はpdfだったりした。同じ頃、JHUのデータに、日本全体のデータのみならず都道府県別データも網羅されていることに気が付いた。日本の誰も成し遂げなかった都道府県別データを、外国の一大学が綺麗にまとめているのである。もう笑うしかない。そんなわけで、俺のアプリが参照する国内データの源泉も、JHUにしようか、と思っていたところ、NHKが都道府県別データを公開した。データ形式は扱いやすく、更新頻度もほぼ1日毎なので、JHUと同レベルの質である。これはこれで素晴らしいことなのだが、日本国内で初感感染者が発生してから約1年も経とうとしていた。

日本がIT後進国なのは自覚していたが、新型コロナウイルスでさらに浮き彫りになった気がした。

2.2.4 政府の意思決定

首相が「専門家の方がこう言っていますから、〇〇しました」「今度開かれる専門家会議で決定したいと思います」という言い回しを腐るほど聞いた気がする。聞き方によっては、行政の決定の責任を専門家会議に押し付けているようにもとれる。ここで俺が言いたいのは、専門家会議はあくまで感染拡大を防ぐことを最優先にした意見を言えばよいのであって、その意見を受けて政策をどうするかは、政府が決めればよいでのである。専門家会議の人たちは、飲食店の経営が厳しくなるとか、経済の流れが悪くなるとか、そういうことを気にせず率直な意見を言えばよいのである。最終的に政策を決定する責任は政府にあるべきである。もしそのように政府が責任をもって進めていたのであれば、首相のパフォーマンスが下手すぎる。

また、意思決定のタイミングもスピードも、全体的にダメだった。慎重に選ぼうとするがあまり、タイミングを逃し、責任を負う覚悟もないから決定スピードも遅かったのではないか、と思っている。

俺は一連の流れを見て、アカギのワンシーンを思い出していた。
ある極道組織の代打ちとして活躍する偽アカギ。卓越した記憶力と、確率を瞬時に計算する能力で、最も効率的な打ち回しをとるスタイルである。それまでは順調に、組に利益をもたらしてきたものの、格上の相手、浦部との対戦で苦戦する。偽アカギは、頭の中で計算した確率に基づいて牌を切っているだけであり、強い意志をもった勝負師の前には、無力であった。

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図2.2-1: 偽アカギと浦部の対戦シーン(17:50~引用セリフ)
(出典:アカギ 〜闇に降り立った天才〜)

何をやっとるんじゃ。訳が分からん。ここで9索を切るくらいなら、なぜさっき通さん?さっき通せば、勝つための一打じゃが、ここで通すというのはただテンパイを維持するだけ。これじゃ素人の右往左往と一緒じゃ。

偽アカギ、今度は危険牌を引き入れた。もともと決意に支えられたツッパリではない。テンパイを崩す。一度崩したらあとは転げるように、数順後には、まるでその心中を投影するかのように手配はボロボロ。崩壊。

入れ変わるように流局間際、2位の太田が引きあがり、逆転トップ。偽アカギは勝利を逃がす。しかし、にも関わらず偽アカギ、浦部の跳満が成らなかったことに胸を撫でおろしている。

欠けている。この男には勝負師としての重要なものが欠けている。

アカギ 〜闇に降り立った天才〜

その決断が正しいかどうかは、あまり重要ではない。ただ、強い決意に支えられたものでないと、タイミングを逃したりスピードが遅かったりするだけでなく、状況一つで簡単に覆されてしまうのだ。たとえ結果的に間違った決断であろうとも、その間違いを認め、正しい道へ導いてくれるのならば、ついていける気がする。俺は、こういうリーダーを求めているのかもしれない。

3. 新型コロナウイルスワクチン

ワクチンとは、感染症の予防に用いられるものである。史上初のワクチンは天然痘ワクチンである。天然痘は感染力が非常に強く致死率も高かったために、死に至る疫病として古来より人々から恐れられていた。また、治癒した場合でも顔面に醜い瘢痕が残るため、忌み嫌われていた。1796年にEdward Jennerは、天然痘と近縁にある牛痘に感染した人(主に乳搾りの女性に多かった)は症状が軽く、瘢痕も残らず、しかも天然痘ウイルスに対する免疫を獲得できる可能性があることに着目し、実際にこれを証明してワクチンの創始となった。その後、天然痘は制圧され、人類史上初めてにして唯一根絶に成功した感染症となる。

現代の日本では、感染症対策上、重要度が高いと考えられる予防接種については、予防接種法に基づき、国民に対し、予防接種を受けることが勧められ、行政の費用負担による予防接種が行われている。対象疾病としては例えば、破傷風/結核/麻しん/風しん/日本脳炎/インフルエンザなどがある。大半の人は接種経験済みだろう。とくにインフルエンザワクチンは毎年接種する人が多いのではないだろうか。いずれも副作用についての注意はあり、了承したうえで接種することになっているのだが、国が認めたものだし、長い実績があるので安全性を疑う人は稀だろう。

しかし、今回の新型コロナウイルスワクチンに対しては、鵜呑みにして打てないのである。これまでのワクチンと同様に国が認可し、かつ費用もかからないのだから打つべきなのだろうが、いろいろな情報が飛び交っていることもあり、ここは一度立ち止まって、自分で考えてみようと思った。こんなところにも、「人類 vs. 新型コロナウイルス」の戦争における、人類の情報戦の敗北具合が垣間見える。

mRNAだとかそんなことはここで議論しない。なぜなら我々が知りたいのは、ワクチンそのものではなく、以下に示すような内容だからである。こういう内容が明示されるのなら、mRNAだろうが虫の糞だろうが関係なく、個人の判断に従って打つかどうか決心するだけである。

  • 新型コロナウイルスを発症するとどのくらいヤバいのか。
  • 新型コロナウイルスに対する有効性はどの程度か。
  • 副作用はどのようなもので、どれくらいの頻度で発生するのか。
  • 本ワクチンについて、分かっていない/検証できていない項目はあるのか。
  • 上記を総合して、ワクチン接種によるメリットとデメリットのバランスはどうなるか。

なお、このような新種のモノに対しては、既存のモノとの相対比較によって示すと分かりやすくなる。例えば、有効率は90%と言われると高い気はするが、皆がよく打っているインフルエンザワクチンのそれが98%だったとしたら相対的に低いし、50%だったらかなり高い値であることを直感的に理解できる。副作用についても同様で、インフルエンザワクチンと比べてどうかを述べた方が理解が早い。

一番大事なのは、分かっていることと、分かっていないことを区別することである。こうすれば、どのような事態も正しく恐れることができる。恐れることは悪いことではなく、むしろその感情によって人類は生きながらえてきたと言ってよいだろう。しかし必要以上に恐れることは滑稽である。

また、「分かっていないこと」に対して、そこで思考停止するのも良くない。本当に全く誰も推測できないことは、実はほとんど無くて、多くの場合、関連する情報や過去の類似事例等から何らかの推測ができるのである。もちろん推測なので外れることもあるが、根拠のある事実から論理的に推測すれば、そのズレ具合も評価できることがある。例えば、1週間後の東京で雨が降るかどうかを知りたいとする。これは誰も知りえない未来の情報であるから、思考停止するなら「分からない」と言うしかない。しかし、気象衛星が捉えた大域的な雲の動き、アメダスが観測している各地点の温度/気圧などの情報、あるいは過去何十年と記録された同じ日付近傍の天気情報、こういうデータを利用すると、1週間後の東京で雨が降る可能性が大きいか小さいか、あるいは具体的に〇〇%の確率で雨が降る、と言うことができるだろう。こういう風に今回のワクチンも理解していくべきと考える。

一方で、ネガティブな背景があることは事実である。世界的に新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐために、現状唯一の「攻撃」であるワクチンを使うしかない状況にある。穿った見方をすれば、万が一、安全性に多少の問題があったとしても、多くの人類を感染から予防できるのであれば、各国リーダーは、ワクチンを国民に打たせる決断をするだろう。運悪く犠牲になった者は、One for All の位置づけと理解される。人類全体の視点から見れば合理的判断なのだろうが、個人にとっては、たまったものではない。

ここで俺は、リーガル・ハイのワンシーンを思い出していた。
新薬を服用した患者が死亡する事件が起きる。担当医は患者の名前すら覚えようとしないドライな人間であり、遺族側は医療過誤として告訴する。最中、担当医も病に倒れ死亡してしまう。調査を進める担当医の弁護側は、その医者が熱心な医学研究者であり、その患者に勧めた新薬は、副作用のデメリットを考えても最良の選択肢だったことを知る。彼がドライな人間だったのは、研究一心のあまり患者に興味が無かっただけなのであった。世の中には本当に悲惨な医療過誤があると前置きしたうえで、本件は医療過誤ではないと断言する、その裁判の最終シーンが図3.0-1である。

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図3.0-1:死は希望
(出典:リーガルハイ)

なにが、なにが科学だ。科学なら人を殺してもいいのか?
進歩と引き換えに犠牲を要求してきたのが科学だ。
じゃあ犠牲者はどうなる?
気の毒だ。
それで済ますのか?
済ますしかない。
残された人間の悲しみはどうなる?
彼女がどんな思いで生きてきたと思っている?この先どんな思いで。
死んだからこそ意味があるんだよ。
なんだと?
死は希望だ。
ふざけるな。

その死の一つ一つが医療を進歩させてきた。現代の医療はその死屍累々の屍の上に成り立っている。誰しも医学の進歩のためには犠牲があっても仕方がないと思っているはずだ。その恩恵を受けたいからね。しかし、その犠牲が自分や家族であると分かったとたんにこう言うんだ、話が違う、と。なんで自分がこんな目に合わなければいけないんだ、誰のせいだ、誰が悪いんだ、誰をつるし上げればいいんだ。教えてやる。訴えたいなら科学を訴えろ。あなたのご主人を救えなかったのは現代の科学だ。

そんなことできるわけないだろ。

だったらせめて、狂気の世界で闘い続ける者たちの邪魔をするな。

リーガル・ハイ

今回のワクチンも、副作用がどうのこうの気になるのではあるが、まずはワクチンが存在することに感謝しなければならい。そもそもワクチンが存在しなければ、感染の恐怖に怯え続けなければならないのだから。そして、打つと決めたなら、いくらか低い確率で起きるであろう副作用を自分が被ったとしても、それは予め覚悟のうえ、受け入れなければならない。それができないならば、打つべきではない。

さて、前置きが長くなったが、先に示した箇条書きの内容を順番に評価していこう。なお、ここでは国内で認可されたワクチンのうち、大多数が接種することになる、ファイザー社および武田/モデルナ社ワクチンを対象とする。

3.1 新型コロナウイルスの症状

以下に主要なWebサイトからの記述を抜粋するが、新型コロナウイルスは肺炎を引き起こし、重症の場合、人工呼吸器やECMOが必要となる。何らかの酸素投与が必要となる確率は感染者の約20%、集中治療室や人口呼吸器以上が必要になるのは感染者数の約5%である。年代別では、従来高齢者の方が重症化率が高かったものの、変異種の感染者が多くなってきた最近では、基礎疾患を持たない者や、若い世代も重症化することが多くなっている。なお、これは最新の情報であり(2021年8月)、具体的に年代別の重症化率を公表している資料は現状無い。各種公式データに登録されるのは、IT後進国の日本ではかなり先になると思われる。ちなみに厚生労働省の公式資料では、重症化率に未だに2020年のデータを使っている。こういう状況では、あまい読みはせず、若い世代も高齢世代と同様の重症化率がある、と見た方がよいだろう。

さらに、無症状、軽症で済んだ場合でも、深刻な後遺症が残る可能性がある。図3.1-1に示すように、3ヵ月以上にわたり症状が持続する人は5~10%程度存在するとされる。

人工呼吸器は軽視されがちだが、図3.1-2に示すように、気管チューブを口から気管の中に挿入する。治療が長期に及ぶ場合は、喉を切開して、そこから気管にチューブを入れることもある。つまり、酸素供給されるマスクのようなものを付けるのではない。なお、挿管にあたっては当然痛みを伴うから、鎮静/鎮痛薬を用いる。

ECMOは機械に肺の機能を持たせるものであり、呼吸と循環に対する究極の対症療法であり、根治療法ではない。通常の治療では直ちに絶命してしまう、または臓器が回復不能な傷害を残すような超重症呼吸・循環不全患者に対し、治癒・回復するまでの間、呼吸と循環の機能を代替する治療法である。具体的には、足の付け根や首の静脈からECMOに繋ぐ(図3.1-3)。考えるだけでゾっとする。

潜伏期間は1~14日で平均約5日である。発症早期は発熱・鼻汁・咽頭痛・咳嗽といった非特異的な上気道炎の症状を呈し、ときに嗅覚異常・味覚異常を訴えることがある。感染者の約20%程度が発症から7日目前後で肺炎が悪化し酸素投与が必要となり、全体の約5%が集中治療室に入室したり人工呼吸管理を要する重症となる。
2021年6月時点で世界における致命率は2.1%であり、日本国内における致命率は1.7%である。特に基礎疾患を持つ患者や高齢者で予後が悪い。

日本感染症学会

図3.1-1:新型コロナウイルス感染症の後遺症
(出典:公平病院)

図3.1-2:人工呼吸器の挿入の様子
(出典:株式会社ヒューモニー)

図3.1-3:ECMO使用例
(出典:メディアスホールディングス株式会社)

3.2 ワクチンの有効性 (ファイザー社および武田/モデルナ社)

ファイザー社のワクチンでは約95%、武田/モデルナ社のワクチンでは約94%と、いずれのワクチンにおいても高い有効率が確認されている。(出典:厚生労働省)

ここで、有効率とは、 ワクチンを打たなかったときに発病した人数が、もしワクチンを打っていたら何%減ったか、という割合を意味している。例えば、不特定100人がワクチンを打たず、そのうち10人が感染したとする。この時、もしこの100人がワクチンを打っていた場合の感染者が2人であった場合、有効率は(10-2)/10×100=80%となる。したがって、同じ有効率80%でも、ワクチン非接種の感染者20人/ ワクチン接種済の感染者4人ということも有りえる。すなわち、有効率とは、100人に打ったらそのうち何%が感染を防げるかを意味しているのではないことに注意する。この辺の説明を誰もしないのが不思議である。有効率の説明はこのページが分かりやすい。

比較対象として、インフルエンザウイルスの有効率は60%程度と報告されているから、ファイザー社および武田/モデルナ社のワクチン有効率は、相対的に高いことが分かる。

変異したウイルスに対しては、 ファイザー社および武田/モデルナ社双方とも実験室的方法による観察では(人体に投与しない要素レベルの実験)、一定の有効性は認められている。一方、実際にワクチンを接種した人と接種していない人の感染や発症の状況を調べる方法においても、その有効率に若干の低下は見られるが、それでも高い値を維持しているという報告がある。例えば、ファイザー社のワクチンを実際に接種した後の状況に基づく研究結果によると、発症予防効果に係るワクチン有効率は、B.1.1.7(アルファ株)で約94%、B.1.617.2(デルタ株)で約88%、また、デルタ株による入院を予防する効果は約96%と報告されている。(出典:厚生労働省)

また、ワクチンには発症予防効果の他に、重症化を予防する効果もある。具体的にどれくらいの割合で重症化を予防できるか、というデータは現状無いが、例えば大阪府では、ワクチン接種により重症化と死亡者が激減したことを報告している

3.3 ワクチンの副作用 (ファイザー社および武田/モデルナ社)

いずれのワクチンも、注射した部分の痛み、疲労、頭痛、筋肉や関節の痛み等がみられることがある。また、まれな頻度でアナフィラキシー(急性のアレルギー反応)が発生する。(出典:厚生労働省)

具体的な頻度を図3.3-1に示すが、2回目接種時の方が、発現割合は高くなることが分かっている。

図3.3-1:副反応の発現割合
(出典:厚生労働省)

比較対象として、インフルエンザの場合は、接種した場所(局所)の赤み(発赤)、はれ(腫脹)、痛み(疼痛)は10~20%、発熱、頭痛、寒気(悪寒)、だるさ(倦怠感)などは5~10%に起こり、通常2~3日で無くなる。(出典:厚生労働省)
インフルエンザと比較すると、副反応の発現割合はかなり高い。

死亡例などについては、厚生労働省では以下のように言及している。

・国内外で、注意深く調査が行われていますが、ワクチン接種が原因で、何らかの病気による死亡者が増えるという知見は得られていません。

・海外の調査によれば、接種を受けた方に、流産は増えていません。

厚生労働省

3.4 ワクチンについて、分かっていない/検証できていない項目 (ファイザー社および武田/モデルナ社)

NHKのまとめでは、以下のように言及している。すなわち、原理的に見れば、今回のワクチンに用いられる物質は体内で短時間で分解され、人の遺伝情報に組み込まれるものではないことが分かっている。また、一般的なワクチンでは副反応は接種してから長くても6週間以内に起きていることから、これ以上長期の影響があるとは考えにくい。さらに、今回のワクチンのタイプは新しいものではあるが、何十年も前から研究されており、その中でも長期的な副反応は認められていない。

ただし、人体に接種してからは高々10年程度のオーダであり、数十年の実績はないことから、今人類が気づいていない/見落としている性質によって、長期的に何らかの悪影響が出てくる可能性は否定できない。とはいっても、上記のとおり、その可能性は極めて小さいと考えられる。

新型コロナウイルスのワクチンは1年に満たない非常に短い期間で開発されたこともあり「長い時間がたってから影響が出てくるのではないか」と心配する声があります。厚生労働省は、日本で使われている「mRNA」ワクチンについて、短期間で分解され、人の遺伝情報に組み込まれるものではないとしています。

これまでさまざまな感染症に対するワクチンの接種が行われてきましたが、アメリカのCDC=疾病対策センターは、これまで接種が行われてきたポリオやB型肝炎、風疹など現在承認されているさまざまなワクチンでは、副反応は接種してから1時間以内から長くても6週間以内に起きているとしています。

新型コロナウイルスワクチンの成分の「mRNA」について厚生労働省は、「mRNAを注射することでその情報が長期に残ったり、精子や卵子の遺伝情報に取り込まれることはないと考えられています」としていて、体の中に入ると数分から数日で分解され、人の遺伝情報、DNAに組み込まれるものではないと説明しています。

また、国際的な科学雑誌「ネイチャー」によりますと、mRNAワクチンが臨床試験で最初に人に投与されたのは15年前の2006年だということです。

国立国際医療研究センターの忽那賢志医師は、厚生労働省のウェブサイトで「mRNAワクチンは新しいプラットフォームのワクチンではありますが、インフルエンザウイルスなど他のウイルスのmRNAワクチンは何十年も前から研究されており、長期的な副反応は認められていません」と説明しています。
(2021年7月2日時点)

NHK

3.5 ワクチン接種によるメリットとデメリットのバランスはどうなるか。(ファイザー社および武田/モデルナ社)

ワクチン接種による有効率は94~95%と、インフルエンザワクチンの60%に比べても高い値を持ち、また、万が一感染しても重症化を予防する効果もある。最近の新型コロナウイルス感染状況では、基礎疾患を持たない者や若い世代の重症化率が高まりつつあること、病床が逼迫していることを考慮すると、本ワクチン接種のメリットは非常に大きいと言える。現時点(2021年8月23日)での国内感染者数累計は約130万人であり、人口1.25億人とすると、96人に1人の割合である。

デメリットは、インフルエンザワクチンと比較してかなり高い発現割合となる副反応と、長期的安全性の実績が無いことである。前者に関しては、ワクチン接種なしで新型コロナウイルスに感染し、重症化するリスクを考えると、数日の副反応で収まることを考えれば、大きなデメリットにはならないだろう。後者については、原理的にみても、また一般のワクチンの知見から見ても、長期的な副反応が発生することは考えにくく、その可能性は極めて小さいと言えるだろう。

以上を総合すると、ワクチン接種のメリットはデメリットを上回り、ワクチンは接種すべきである、と言えるだろう。

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